「ひとつだけ」。
矢野顕子さんが作った曲です。
美しい曲です。
1980年の「ごはんができたよ」に収録されています。
矢野顕子 「ひとつだけ」 原曲 ♪
※引用元:矢野顕子(Official)
これですね。
この「ひとつだけ」が原曲です。
編曲は、後に夫となる坂本龍一さん。
このバージョンが、一番、記憶に残っています。
美しいアレンジ。
原曲の良さを存分に引き出しています。
さすが坂本龍一さん。
健康的な明るさと、躍動感にあふれた名曲です。
この曲、何度も聴きましたねえ。
いえ、今でも時々聴きます。
良い曲です。
ちなみに、この歌詞は、矢野顕子さんの子どもに向けた歌詞だといいますね。
サビの
離れている時でも わたしのこと
忘れないでいてほしいの
ねぇおねがい
悲しい気分の時も わたしのこと
すぐに呼びだしてほしいの
ねぇおねがい
は、小さい我が子に対して「お母さんがいるからね♪」と、子どもに寄り添う気持ちを歌い上げています。
そんな矢野顕子さんの思いが、ストレートに吐露しているのが、「ひとつだけ」なんですね。
で、そんな美しい心を、坂本さんのシンセサイザーで見事にキラキラに仕立ててあげています。
うーん、いいですね(^o^)
この「ひとつだけ」。
その後、矢野顕子さんと坂本龍一さんとの間に生まれた「坂本美雨」さんが歌います。
時は1999年。
ひとつだけ / 坂本美雨
※引用元:Miu Sakamoto Official
これですね。
母親が歌うキラキラな感じとは打って変わって、ローファイになっています。
しかしダンサンブルになっていて、ノリがいい。
アレンジは秀逸。
格好いいオブリガードもあって引き込まれます。
イントロがマーヴィンゲイの「Whats Going On」を彷彿とさせるバラード風になっています。
声がお母さんの矢野顕子に似ていますね。
原曲とはトーンが全然違いますが、雨美さんのサウンドは、オリジナルとは違う良さがありますね。
ちなみに母親の矢野顕子が、サポートかのようにコーラスとして入っています。
なんだか、名曲「ひとつだけ」が、母から娘に引き継がれるようでもあり、物語を感じさせます。
収録アルバム、坂本美雨「DOWN PINK」
しかし、その引き継ぎの物語は、決して美しいものではなかったでしょう。
事実、娘の坂本美雨さんが歌う「ひとつだけ」は、母親の矢野顕子さんが歌う「ひとだけ」と違っています。
どこか陰があり、寂しげな作りになっています。
この変容。
坂本美雨さんのバージョンも格好いいです。
アレンジもいい。
しかし、どこか哀愁を帯びている。
深読みになりますが、この空気感の違いは、現代風のアレンジとは別に、当時の坂本美雨さんが抱える葛藤がそのまま曲調として出されているのではないかと。
矢野顕子さんと坂本龍一さんとは2006年離婚しています。
90年代の半ばには、既に別居状態だったといいます。
1999年に、坂本龍一さんは不倫相手の女性との間に子どもを設けたとか。そんな話しもあります。
の坂本美雨さん、当時19才。
で、同じ年の1999年に、この歌「ひとつだけ」をレコーディングして歌っています。
ちょっと想像すると、胸が締め付けられます。
15〜6才の頃には、お父さんは家にいない。
娘としては、複雑な心境もあったのではないかと。
多感な時期における父親の不貞行為。
両親の不和、別居は堪えます。
坂本美雨さんの声質を聞く限り、繊細な感じです。
もしかすると感受性が強く、細やかな神経の持ち主ではないかと。
両親の不和は、相当に堪えたのではないかと察します。
年頃の女の子、いえ男の子であっても、両親の不和、別居は堪えるものがあります。
そんな彼女が、母親が作曲し父親が編曲したこの名曲を歌い上げるのは、何かこみ上げるものもあったのではないかと。
離れている時でも わたしのこと
忘れないでいてほしいの
ねぇおねがい
悲しい気分の時も わたしのこと
すぐに呼びだしてほしいの
ねぇおねがい
母親の矢野顕子さんは、我が子に寄り添う気持ちを歌詞に表した。
しかし娘の坂本美雨さんは、別の意味で、この歌を歌っている。
「ひとつだけ」を歌うことで、自分の中の気持ちの中にある複雑な気持ちを昇華しつつ、父親に対する複雑な思いも表したのではないかと。
また母親の矢野顕子の気持ちを代弁しているのではないかと。
坂本美雨さんが歌い上げる「ひとつだけ」は、両親に向けて歌い、捧げて歌い上げたようにも思えます。
この歌いの背景には、そんな娘の心情があったのではないかと。
彼女の細い声を聴くと、なんだかジーンと来ます。
物憂げなローファイなアレンジが悲しく聞こえます。
名曲「ひとつだけ」の歴史は、物語があります。
人生を感じさせます。
原曲そのものが良いですので、誰が歌っても、アレンジしてもよい仕上がりを見せるでしょう。
が、人生の陰影にも彩られた名曲。
それが「ひとつだけ」。