レバノンがデフォルト(財政破綻)した原因
2020年3月にレバノンがデフォルト(財政破綻)しました。何故レバノンはデフォルトしたのでしょうか。その理由・原因を経済評論家の三橋貴明さんがわかりやすく解説しています。
財政破綻するとどうなるの? 財務省さん、教えてあげるね[三橋TV256回]三橋貴明・高家望愛
お聞きの通りですね。
ドル建て国債のためにレバノンはデフォルトした
レバノンがデフォルト(財政破綻)した理由は、ズバリ「ドル建て国債」だったからです。
「自国通貨建て」であればデフォルトは決してしませんね。MMT現代貨幣理論)でも言われています。
が、レバノンは、レバノンポンドという通貨があるのに、国債は「ドル建て」。レバノンポンド建ての国債では無かったんですね。何故か?
レバノンは経常収支赤字国
レバノンは経常収支が赤字の国です。で、経常収支が一回も黒字化していません。ずっと赤字のまま。
ちなみに経常収支はとは国の国際収支のことです。
貿易・サービス収支、海外からの利子、配当金などから構成されています。
ザックリ言いますと、輸入や海外での経済活動による利子や配当ってことですね。
レバノンは国内での供給能力が乏しい
では何故、レバノンは経常収支が赤字なのでしょうか?その理由は、国内で生産をしないからです。供給能力が乏しいんですね。なので貿易赤字が増えてしまうわけですね。
そもそもレバノンは内戦を続けていました。そのため自国で生産する設備を作ることができなかったわけです。
工場を作ることができない。なので製造業が育たない。実際、家電、IT通信(スマホ)、自動車などは全て輸入しています。
貿易赤字が増えるとレバノンポンドの価値が下がる
このようにレバノンは貿易赤字が拡大しています。
で、輸入して支払いをする際、レバノンポンドをドルに両替します。するとレバノンポンドの価値は下がるようになります。
この結果、輸入価格が上がります。ものすごく上がる。1000レバノンポインドで買えていた輸入品が、2000、3000レバノンポンドとなってしまう。
で、この影響を受けて国内の物価も上がってしまいます。インフレです。
結局レバノンは、貿易赤字が大きい上に、国内の供給能力が脆弱だったため、このようになってしまったわけです。
レバノンポンドの為替防衛のために固定為替相場制
国内の供給能力が乏しく、輸入に頼り、そのため貿易赤字が増える。が、レバノンポンドの価値は下がる。
このままではレバノンは国が持たなくなります。内戦・内乱もしていましたので。
そこでレバノン政府は、1ドル=1500レバノンポンドの固定為替レートを採用。
固定為替制度で、輸入物価はハネ上がることはなくなる。インフレ防止のため固定為替相場。
固定為替相場制を守るためにドル建て国債を発行
固定為替相場制はレバノンポンドの通貨下落を防衛します。が、固定為替を維持するために、ドルを使ってレバノンを買い戻します。ところが手持ちのドルが足りなくなります。
そこで「ドル建て国債」を発行して、ドルを手にするようにした。国債金融市場からドルを買うようにした。
固定為替相場制を維持するために、ドル建て国債を発行するようになったというわけです。
レバノンはドル建て国債によってデフォルトした
しかし、レバノンポンドを買い戻すための手持ちのドルが底をついた。それで2020年3月に財政破綻した。デフォルト。
レバノンはドル建て国債によってデフォルトしたわけですね。
で、その後、レバノンポンドの価値が下がり、今では1ドル=6000レバノンポンド。物価が高騰。インフレ。
貿易赤字の拡大と供給能力不足がデフォルトを招く
結局、貿易赤字の拡大。国内の供給能力不足。この2つの理由から、レバノンはデフォルトしています。
このままでは、レバノンでは革命、クーデター、暴動が起きて、政府が転覆してしまう可能性があるといいます。
日本を財政破綻させるためには?
レバノンの事例を元に、日本を財政破綻させるためには、次のようなステップが必要になります。
1.緊縮財政を続けて日本の供給能力を減らし続ける。
2.総需要に対して供給能力がものすごく不足すると貿易赤字は拡大。で、日本の為替レートは下落していくようになる。
3.やがて輸入物価急騰を防ぐために固定為替相場制度を導入することになる。
4.ドル固定相場を維持するために、外貨準備金を取り崩して「ドルで円を買う」為替防衛を続ける。
5.外貨準備金が底をつきそうになったら、「ドル建て国債」を発行し、為替防衛のためにドルを手に入れる
6.貿易赤字、経常収支の赤字が拡大し、為替防衛と為替レート維持の外貨準備金が底を尽いたとき日本は財政破綻をする。
政府の債務不履行が実現。これが日本の財政破綻のシナリオです。
日本は財政破綻しない
しかし日本ではこうなりません。財政破綻はしません。日本とレバノンとでは大きく異なるからです。
そもそもレバノンではモノを作りません。そのため貿易赤字が大きく経常収支も赤字。この2つの理由が、レバノンの財政破綻を招いています。
しかし日本は経常収支は黒字。黒字が大きい。
日本の経常収支は黒字なので財政破綻しない
経常収支の黒字は、日本の対外純資産の増加になります。たとえばドイツで働いた。ユーロで給与をもらった。で、銀行に預けた。で、金利が入ってくる。
これが経常収支にある配当金とか金利。この海外からの配当金や金利が、日本では大きいため経常収支は黒字となっています。
つまり日本では「所得収支」が経常収支の軸となっています。経常収支の黒字の積み重ねが起きている。だから対外純資産が増え続ける。これが循環しています。
日本における対外純資産は増え続けています。だから経常収支の黒字は増えます。
で、実際問題として日本の経常収支が赤字化することは考えにくい。だから、日本はレバノンのような財政破綻はしない。ということになります。