陰謀論の真実~社会科学が解き明かす支配者の心理
陰謀論。
時々見聞しますね。為政者や富裕層が、世界を支配するためにあくどいことを画策していると。
で、ダボス会議やビルダーバーグ会議では、支配者による陰謀が行われていると。
しかし陰謀論よりも、社会科学のほうが合理的かつ納得のいく説明ができます。
また何故、為政者や富裕層らが、一般庶民とかけ離れた考えを持ち、まるで世界を滅ぼすかのような見解を抱くのかは、社会科学を通した心理分析のほうが説得力があります。
いわゆる「陰謀論」よりも、政治家や富裕層、経済人といった一部のエリートらが持つ心理を社会科学から解き明かしたほうが納得できます。
中野剛志さんによる社会科学的に分析したエリート心理
そんな社会科学からの分析と見解がこちらです。中野剛志さんによる解説です。
MMT(現代貨幣理論)が暴露した不都合な真実 「財政破綻論」の社会科学|中野剛志
こちらの動画では、MMT(現代貨幣理論)を受け入れることができないのは何故か?国家は緊縮財政とプライマリーバランス黒字化を目指し、財政出動をしないのは何故か?といった理由を、社会科学的な見地から解説しています。
この動画は、政治家や富裕層、経済人といった一部のエリートら心理を社会科学的な見地から分析している優れた内容です。
で、政治家や富裕層、経済人といった一部のエリートらは、「何故、一般庶民をかけ離れた頓珍漢な見解を抱くのか?」といえば、社会科学的にいえば、次の4つの理由に集約できます。それは、
- 自己実現的予言・・・デマや予測が、そのデマや予測の影響によって本当に実現してしまうこと。
- センメルヴェイス反射・・・正しいこと言っても多数派は受け入れることができず、否定し排除してしまう反応のこと。
- 認識共同体・・・同じ価値観や考えを抱く集団のこと。政治家や経済人が形成すると庶民とかけ離れた見解を抱くようになる。
- 経路依存性・・・社会や人は同じ方向へ進む傾向があること。急に舵を切ることができず危険と思っても突き進んでしまうこと。
ということです。
以下に詳しく、話しを要約していきます。
自己実現的予言
自己実現的予言とは、「デマや予測が、そのデマや予測の影響によって、本当にデマや予測が実現してしまうこと」をいいます。
要するに「言っていることが本当になってしまう」こと。こういうのが社会では起きる。
このことはロバート・キング・マートンが言っている。自己成就的予言・自己破壊的予言。合成の誤謬みたいなもの。
自己実現的予言の例~グローバリズム
ある経済人が
「これからはグローバリズムでいこう。
グローバルでなければならない。
内需は縮小するから外需を取りに行こう」と。
このように提言すると、次のようなことが起きる。
「内需は縮小する」と言われているから、外需を取りにいこうとする。しかし外国では安い労働者がいて、それと戦うことになる。そうなると日本の労働者の所得を下げるしかなくなる。そうすると内需が小さくなる。なんと外需を取りに行ったことで、内需が小さくなってしまった。
しかし提唱者は「ほらオレの言った通りだろ、内需が小さくなっただろ」と言う。
実は内需が小さくなるような仕掛けをしておいて、実際に内需が小さくなったら「ほらオレの言った通りだろ」とするのが自己実現的予言。
自己実現的予言の例~アメリカの黒人差別
アメリカの黒人差別もそう。
ある教育者が「黒人は知的レベルが低い」と言った。しかし本当はそんなことはない。黒人の知性が低いことはない。
ところが「黒人は知的レベルが低い」というので、それじゃあ学校に行かせないという風潮が生じた。で、黒人が学校へ行けなくなった。そうしたところ本当に黒人の知的レベルが低くなってしまった。
ところが提唱した教育者は「ほら言った通りだろ」と。
自分で黒人の教育を受けさせない風潮を作っておいて、その結果、知的レベルが下がったなら「私の言った通りだろ」と言う。
自己実現的予言の例~人口減少すると経済の成長は見込めない
あるいは
「人口減少すると経済の成長は見込めない」
「人口が減少するから経済が成長しないんだ」
「このままでは財政が破綻するので消費増税が必要だ」
といった理屈。
この理屈は、昨年の消費税アップの論理にもなっている。
しかし実際は、消費増税をすると、国民の負担が大きくなる。お金がなくなる。貧困化する。
貧困が進むと結婚する人が減る。仮に結婚しても子どもを持たない。子どもを育てるにはお金がかかるから。
だから子どもが減る。ますます少子化になる。人口が減る。
消費増税が原因で少子化になって人口が減ったのに、「ほら人口が減っただろ」と言い出す。悪循環に陥る。
自己実現的予言の恐ろしい力
自己実現的予言には、こういう恐ろしい現象がある。予測を言っておきながら、その予測によって、予測を実現してしまう。
社会は、なんかうまくゆかない。みんなが集まるとおかしくなる。
太平洋戦争もそうだった。当時は戦争をしないように頑張ったが、結果的に戦争することになってしまった。
自己実現的予言を阻止する方法
自己実現的予言を阻止するためには、どうすればよいのか。
それは真実を広めること。真実を伝えて広めるしかない。これしか自己実現的予言を修正する方法はない。
財政問題もそう。
正しいことを言い続けるしかない。プロパガンダ戦を続けることが唯一の解決策。
センメルヴェイス反射
センメルヴェイス反射とは、正しいこと言っても多数派は受け入れることができない。むしろ否定し排除してしまう。こうした反応を「センメルヴェイス反射」という。
センメルヴェイス反射とは、多数派の意見は、少数派の意見を反射的に拒絶すること。
何故、センメルヴェイス反射は起きるのか?
人間は誰しも間違っていたことを訂正しにくい。テヘペロができない。日本人は、中でもこの傾向が強い。
集団の多数派とは異なることを言うのは、そもそもストレスが強い。集団と同じ行動を取ったほうが生き残りやすい。
本能として「集団の多数派には逆らうな」というのがある。だから、真実を見せられても多数派意見に従う。多数派の意見を優先するために、真実が歪んで見える。そんな本能が人にはある。
集団に従おうとする本能が絡んでいる。だからセンメルヴェイス反射が起きる。
センメルヴェイスとは何か?
センメルヴェイスは医者。
研修医だった。
19世紀半ばの人。
ウィーンの病院に勤務。
当時は、お産をしたお母さんが亡くなるという奇妙な現象が起きていた。お産をすると、お母さんが「産褥熱(さんじょくねつ)」となって死亡してしまう。
しかし原因不明。
けれども産婆さんがやると産褥熱にならなかった。医者が行うと産褥熱になる。
当時は細菌の概念が無かったし、細菌の存在がわからなかった。
そんな中、センメルヴェイスは、医者の手から何かが出ているのではないかと直感。そこで医者の手を洗ってからお産を行わせた。
そうすると産褥熱が減った。センメルヴェイスは医者に手洗いをすすめた。
しかしセンメルヴェイスの話しは聞いてもらえなかった。主流派の医師からは認められなかった。
なぜならば、センメルヴェイスの節が正しいとするならば、母子を殺してきたのは医師だったということになって、これを認めることができなかった。
テヘペロができなかった。「都合の悪い真実」を認めたくない。
しかもセンメルヴェイスは当時、研修医だった。「研修医ごときが何を言っているのか」と白眼視された。で、センメルヴェイスは追放された。
しかしセンメルヴェイスは、本を書いて告発した。けれども「センメルヴェイスは頭がオカシイ」といわれて精神病院へ強制入院させられた。
センメルヴェイスは病院を脱走した。しかし守衛にボコボコにされて亡くなってしまった。
その後、センメルヴェイスの説が正しいことがわかった。産褥熱は、医師の手から感染していた。
このセンメルヴェイスの経緯より、「少数派が正しいことを言っても多数派から反対されること」をセンメルヴェイス反射という。
少数派や地位に無い人の意見は聞いてもらえない
財政破綻は、まさに「センメルヴェイス反射」。本当は財政破綻の問題はない。
けれどもなぜ財務省や財政破綻論者は態度を改めないのか。MMTを支持できないのか。そうした奇妙な態度の理由は、センメルヴェイス反射。
三橋貴明さんや中野剛志さんが「MMTが正しい」と言っても受け入れられない。これが東京大学の教授やノーベル経済学賞の大学教授が言えば、受け入れてもらえる。
普通は、三橋さん中野さんを受け入れることはない。地位にある人、ノーベル賞を受賞した人が「優れている」とするほうが圧倒的。
センメルヴェイス反射を解決する方法
センメルヴェイス反射を解決するには、2つある。
1.戦争、恐慌など社会的に大惨事が起きる場合⇒否応がなく変わらざるを得ない
2.世代交代⇒頭の固い人が消えることで解決する
社会主義もそう。悪い意味で使われている。社会主義はアホ。しかし今のアメリカの若い人達は、社会主義を悪く思っていない。
右翼左翼の発想はおじいちゃん。世代によって違ってくる。
認識共同体
認識共同体とは、同じ価値観や考えを抱く集団のこと。政治家や経済人が形成すると庶民とかけ離れた見解を抱くようになる。
「自分の考え」といっても、実際は自分が属している集団によって考えが作られている。「朱に交われば赤くなる」の通り。集団の中にいて「考え」は作られる。宗教が典型。
お金持ちと貧乏人は価値観・考えが違う
お金持ちはお金持ちだけと付き合う。貧しい人は貧しい人だけと付き合う。で、それそれが「世の中はこんなもんだ」と思うようになる。これは「認識共同体」の違い。
お金に困らないで育ってきた人が見ている社会と、銃撃戦が飛び交うスラムや貧困街で育ってきた人が見ている社会とでは全然違う。世の中の見方も違ってくる。
認識共同体が著しく異なると、話し合っても話しが合わなくなる。だから貧富の差ができるとマズい。
金持ちからの政治家と貧困からの政治家とでは政策が異なる
これは政治家も同じ。
金持ちから政治になった人。
貧困で育って政治家になった人。
政策が全然違ってくる。
認識共同体が違うから。
金持ちから政治になった人は、貧しい人がいるのは「努力が足りないから」と思う。だから「努力すれば成功できる」と思う。「さぼっているから貧しいんだ」「ダメになっているんだ」と思う。
こういう人が政治家になると、人がさぼらない政治を行う。
ところが貧困で育って政治家になった人は全く違った見解を持つ。「努力してもどうにもならない、這い上がることができない」というのを嫌というほど見ている。努力もへったくれもない。
だから「政治が率先して、国民を救済しないといけないんだ」と思うようになる。金持ちから政治家になったケースとは、真逆の考えを持つ。
日本の政治家が緊縮財政・貧困政策を採用する理由ヒ一つ
現在の日本の政治家は、お金持ちから政治家になっている人が圧倒的。
だから日本が小国化し、貧困化する政策をしても気にならない。緊縮財政、プライマリーバランス黒字化を問題と思わない。むしろ日本を貧しくする政策をしてしまう。
なぜ、このような頓珍漢な政策をするかといえば、彼らは「努力すれば成功し、豊かになれる」と思い込んでいるから。「国民を甘やかせちゃいかん(努力させることが大事)」と思っているから。
そういう「認識共同体」の中で生きてきているし、生きてきた。
だから政策の失敗で貧困が多くなっているにも関わらず、このことが理解できない。理解できないのは、彼らが育ってきた環境が大きい。金持ちから政治家になると、国民を圧迫する政策を行いやすい。
民主主義のためにも貧富の差はよくない
だから貧富の格差はよくない。
貧富の差ができると、お互いの話しが合わなくなる。話し合いができなくなる。これはマズイ。民主主義ができなくなる。
話し合いができて、意見を一致させるには、そもそも同じ価値観の土壌がないとできない。「話せばわかると」いっても、それができないことがある。だから格差の拡大は怖い。「認識共同体」が著しく異なるのはよくない。
恵まれた認識共同体にいると感覚にズレが出てくる
政治家、官僚、ビジネスマンなど、国境を越えて活動している人は、その人達同士で話しをすると同じ価値観があることがわかる。つまり似たような「認識共同体」にある。
彼らには国境は関係無い。しかもお金持ち。ワインを飲みながら、美味しいご飯を食べながら話し合うと「規制が多いからうまくゆかなんだ」とか「グローバリズムがいいんだ」とか思うようになる。
またインフラが整って良いところに住んでいる人は、「もうインフラいいんじゃないの」「道路なんていいんじゃないの」と思うようになる。
マリーアントワネット。
パンが手に入らない時世にも関わらず、「ケーキを食べればいいじゃない」と言ったという。これは作り話し。
しかしこれらは庶民の気持ちがわからない事例。恵まれた認識共同体にいると、庶民の感覚がわからなくなる。当たり前のことに感謝もできなくなる。ズレが出てくる
グローバリズムの認識共同体に賛同する人
グローバリズムに賛同する人は、マリーアントワネットと同じことになっている。
同じような認識共同体の人達の間で話しが行われている。国境は要らないと思っている人達は、ダボス会議に行ったりする。アメリカではお金持ちだけの町もある。また「特別な階級」という気持ちのよさもある。
で、友達になるためには、彼らと同じ価値観を持つように努める。こうして特殊な認識共同体が広がっていく。
日本人は、こうしたエリートの認識共同体に入らないとエリートとして扱ってもらえない。だから留学をする。アメリカの大学は、金持ちしか入れない。
で、留学した日本人は、エリートの世界のアメリカを体験して、それがアメリカの全てであるかのように語る。
エリートの認識共同体では理解困難な庶民の生活
トランプが大統領になった理由はエリートには理解できない。イギリスで起きたブレグジットもそう。
これらは庶民の感性に基づく社会現象。エリートの認識共同体とは違う感性がある。
だからトランプが当選したことやブレグジットは、エリートは分からなかった。
彼らは、自分達のお花畑の価値観にいるのでわからない。苦労知らず&エリートの認識共同体で生きていると、庶民の感覚が分からなくなる。
エリートが、貧しくてどうにもならない人達がいることへ思いを寄せる。環境問題、貧困問題に、責任を持って対処する。そういう姿勢が「オレ達エリートには必要だよな」という認識共同体があれば何も問題はない。
しかし実際は違う。感性が鈍くなり、共感性が乏しくなって、狭い了見の「エリートの認識共同体」にいる。
もしエリートの認識共同体にいて、庶民的な考えを持っている人は、相当変わっている。
経路依存性
経路依存性とは、社会や人は同じ方向へ進む傾向があること。急に舵を切ることができず危険と思っても突き進んでしまうこと。
何故、財政破綻論者は、その誤った考えを改めないのか。それは認識共同体は持続性があるから。タイタニックのように急に舵を切ることができない。突っ走る。
社会は、同じ方向へ進む傾向がある。
何故かとえいば、ある方向にいったん向くと、損をする人が一杯出てくるから。その人達が路線変更したくないと思う。だから突っ走ってしまう。これを「経路依存性」という。
財政破綻論に見る経路依存性
財政破綻論も同じ。
今まで言ってきたことを否定するのはツライ。間違えを認めることはできない。ノーベル賞受賞の経済学者は、今さら否定できない。正しい話しすら聞けなくなる。
財政破綻論に関していえば、財政出動をすると困る人達がいる。たとえばレントシーキング。水道民営化、電力自由化。
だから彼らは、財政破綻論にすり寄り、財政破綻論が正しいことを言い続ける。
財政破綻論者は、それで満足する。プライドが満たされる。
認識共同体は経路依存性を帯びる
結局、「認識共同体」は「経路依存性」を帯びる。認識共同体を守るために、同じ仲間を選ぶ。同じ仲間内だけにい続ける。固める。
そうして認識共同体以外の人は排除する。これを「クレンジング」という。同じ考えの人を集める。固める。そうして行くところまで突っ走る。
経路依存性は、よほどのことが起きない限り変わらない。リーマンショクとか戦争などの社会的アクシデントが起きない限り変わらない。
グローバリズムにみる経路依存性
いったんグローバリズムを行うと、今さら変えられなくなる。変更ができない。
移民政策もそう。
今さら止められない。
水道民営化もそう。
民営化すると地方自治体も水道事業のことがわからなくなる。民営化のままがいいと言い出す。
公共事業もそう。
公共事業を削ると、技術者がいなくなる。土木建築者がいなくなる。もはや土木建築の公共事業ができなくなる。
社会は経路依存性なので無闇に変えてはならない
社会全体は変わりにくい。
経路依存性がある。
なかなか変更ができない。
経路依存性の影響は手強い。
だからよく知りもしない素人が、安易に社会をいじくり回すのはよくない。
基本的に、うまくいっている伝統や慣習に沿ったほうがいい。皇室も同じ。皇室もうまく続けている。2500年以上の歴史もある。
よき伝統や慣習は大事にする。社会は経路依存性の性質があるので、いったん変えると、修正が効きにくくなる。
まとめ
以上が中野剛志さんによる社会科学からの分析と見解です。
素晴らしいですね。
またわかりやすい。
・自己実現的予言(予測が、予測自身によって実現すること)
・センメルヴェイス反射(少数派の正しい意見は受け入れ難いこと)
・認識共同体(同じ価値観を抱く集団)
・経路依存性(同じ方向へ進むこと)
この4つの特徴によって、人や社会は形成されているということでもあります。また頓珍漢がことが起きたり、その頓珍漢なことが修正ができない理由でもあります。
陰謀論とはまったく異なります。
といいますか合理的ですし現実的です。支配者の心理は社会科学のほうが説明がつきます。
中野剛志さんの話しは大変有益ですね。