ACTの脱フュージョン 5つのテクニック~ネガティブな感情を消すやり方
第三世代の認知行動療法にACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)という技法があります。
ACTには、マインドフルネスと併用することでストレス低減やネガティブな感情を消すことができる「脱フュージョン」というテクニックがあります。
脱フュージョンにはいくつかのエクササイズがあります。今日は、そのうち代表的な5つのエクササイズを後半で紹介いたします。
フュージョンとは?
そもそも「フュージョン(fusion)」というのは「融合・同一」という意味です。
認知行動療法でいうところのフュージョンとは、ネガティブな思考や感情と同一化してしまうことをいいます。
「巻き込まれること」ですね。
これが「フュージョン」です。
脱フュージョンとは?
で、「脱フュージョン」とは、ネガティブな思考や感情と自分を切り離して、否定的な感情に巻き込まれないことをいいます。で、これを可能にするテクニックをいいます。
他人から何か言われて、自分の中に生じたマイナスの感情や、他人から受けた誹謗中傷によるネガティブな感情を切り離す方法です。
苦しくなるのはネガティブな感情と同一化するから
そもそも「ネガティブな感情」が「自分自身」と思ってしまうから苦しくなるんですね。
実のところ苦しみとはネガティブな感情が同一化している状態です。「巻き込まれている」ともいえます。
なのでネガティブな感情を切り離すことによって、自ずと幸福感や心地よさといったハッピー感が生じるわけですね。
したがって苦しまない秘訣は、苦悩を「自分自身としない(同一化させない)」ということになります。
で、これを実現するACTによる心理テクニックが「脱フュージョン」ということです。
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の特徴とは?
ちなみに「気づきの瞑想」「いまここ」「マインドフルネス」には、
1.ストレス低減
2.悟り
という2つのコースがあります。
で、この2つとでは目的が異なります。途中までは両者は一緒です。
「気づき」に開けるところまでは同じです。名色分離智に開けるところまでは一緒。「気づきのスペース」が生じるところまでです。
しかしここから道が別れます。「悟りの方法」では思考や感情を「ただみる」としていきます。
しかし「ストレス低減」マインドフルネスでは、ネガティブな感情や思考を解消するテクニック(脱フュージョン)を使って、価値ある人生を創造する方向に使っていきます。
社会に順応し、価値ある人生を創造するため特化した認知行動療法こそが「ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)」になります。ACTはマインドフルネスの発展系です。
原始的な脱フュージョン
さて「脱フュージョン」ですが、もっとも原始的な「脱フュージョン」のやり方があります。それは「嫌なことを言われた相手に対して反撃するやり方」です。
これは子どものケンカにも見られます。言われた相手に対して
・「おまえはわかっていない」と言い返しす。
・「バカかおまえ」と言い返す。
・「おまえのかーちゃんでべそ」。
・殴る、蹴る、叩く。
といったように、口や暴力を使って物理的に反撃することですね。
こうした行為によってネガティブな感情も切り離すことができます。なのでやった後は心がスッキリもするわけですね^^;
これは昔はひんぱんに行われていました。なので古典的・原始的な脱フュージョンなわけですね。
けれども反撃をして,その時はスッキリしたとしても、相手を傷つけてしまう場合があります。自分の中に罪悪感が残ることもあります。
古典的な脱フュージョンは、現代では問題になりやすくなっています。刑事事件に発展する場合もあります。おすすめできなくなっています。
ACTの脱フュージョン・エクササイズ
そこで現代的なやり方で、洗練されたのがACTの「脱フュージョン」ともいえます。
「脱フュージョン」とマインドフルネスによって生じる「気づきのスペース」を併用すれば、感情と同一化しなくなり、切り離すことがわりとできるようになります。
脱フュージョンは同一化を避ける方法。
ネガティブスパイラルに陥らない方法。
一回距離を置く。
巻き込まれない
「どれどれ観察してやろう」といった余裕も出てきます。冷静、冷徹に対応もできるようになります。
ACTは割と知られていますので、知っている方もいらっしゃると思います。
が、ここでは代表的なエクササイズをご紹介いたします。
1.私は○○○と思考している法
これは「私は○○○と思考している(思っている、感じている)」という方法です。
言葉を付け加えることで思考や感情から距離を置く方法。○○○には感じているネガティブな感情や思考が入ります。
やり方は、たとえば「オレは○○を絶対に許せない」と思っている場合は、
- ネガティブな感情「オレは○○を絶対に許せない」をまず何度か言う。
- 次に「オレは○○を絶対に許せない」と「思考している」と何度か言ってみる。
- 「オレは○○を絶対に許せない」と「思考している」ことに「気づいている」と言ってみる。
あれま不思議。
ネガティブな感情の後に言葉を追加すると、少しずつその感情が弱まっていきます。
感情の後に言葉を追加することで、ネガティブな感情や思考から
距離を置きやすくなる脱フュージョンのエクササイズです。
2.私はバナナだ法
「私はバナナだ」という方法があります。
これは「あり得ないこと」を言うことで、思考や感情が言葉や観念に過ぎないことへの自覚を深め、思考や感情と距離を置く方法です。
やり方は、たとえば「オレは○○を絶対に許せない」という場合は、
- まずネガティブな感情や思考である「オレは○○を絶対に許せない」と言う。
- 次に「私はバナナだ」と言う。
- これを交互に言い続ける。
そうすると、おや?だんだんと「オレは○○を絶対に許せない」が弱まっていくのが感じられます。
これは「私がバナナ」というあり得ない観念を挟むことで、「思考や感情は思考・感情に過ぎない」という自覚を無意識に気づかせるテクニックです。
これを行っていくと、ネガティブな感情がバカバカしくなっていきます。そうしてネガティブな感受や思考から距離が置けるようになります。
笑いや苦笑が出たり、「なーんだ」「アホか」といった言葉や思いが出るのは効果が出ている証拠です。
3.点数化法
点数化という方法があります。
これはネガティブな感情を細かく分析して、それぞれに点数を付けるやり方。
- まず感じているそのネガティブな思考や感情を何度か言う。
- 次に、そのネガティブな感情を分析する。
- それぞれに点数を付けるならば、何点になるのか採点する。
- しばらくしてから再び採点してみる。
たとえば「オレは○○を絶対に許せない」の場合は、
- 「オレは○○を絶対に許せない」と何度か言う。
- 「オレは○○を絶対に許せない」にどんな感情が含まれているのか分析をする。
・怒り・・・80点
・憎しみ・・・70点
・やるせな・・・50点
・恥ずかしい思い・・・40点
・くやしさ・・・40点 - といった具合に、大体でいいので採点化してみる。
- 2時間くらい経ったら、夜になったら、再び採点してみる。
こうすることでネガティブな思考や感情が薄らぎ、距離を置くことができます。
4.替え歌法
替え歌法というのもあります。
これはネガティブな思考や感情を「ハッピーバースディ」の歌にして歌うやり方。
たとえば「許せない」という感情がしつこくつきまとうならば、(1)「オレーは♪○○を許せなぁい~♪ 絶対に許せなぁい~♪」という具合に歌う。
こうすることでネガティブな思考がお笑いやユーモラスになってきます。開放的な気分や笑える歌に乗せて歌うことで、思考や感情を切り離す方法。
これもネガティブなことをバカバカしいことにしたり、ギャグやお笑いにしてしまう方法です。
「ハッピーバースディ」の歌のほかに、明るい気分になる歌、クスっと笑える歌、開放的な気分になる歌に乗せて歌ってみることも効果があります。自前のソングで歌ったほうがいいかもしれませんね。
ちなみに激しい曲やバラードにしてしまうとネガティブさが強くなってしまいます。曲の選定には注意を要しますね
5.アニメキャラの声法
アニメキャラの声で言う方法もあります。
これはミッキーマウスなどのユーモラスなキャラになりきって、そのキャラの声でネガティブな思考や感情を言う方法です。
たとえば「オレは○○を絶対に許せない」の場合は、
・ミッキーマウスの甲高い声で「ヲレは○○を絶対に許せないんだよぉ~」
と言ってみます。何回か言っているうちに笑えてきたり、バカバカしくなってきます。
ミッキーマウスのほかに、クレヨンしんちゃんなどの笑えるキャラの声でもOK。
ただし喪黒福造のようなネガティブなキャラや、シリアスなキャラで言うとますますネガティブになってしまいます。
こちらもキャラ選定が大事ですね。この方法も笑いやギャグにして切り離す方法です。
脱フュージョンは新しいテクニック
このようにACTには、思考や感情から切り離す「脱フュージョン(脱同一化)」のテクニックがあります。
体を動かしたりおしゃべりなどをして発散する方法や、従来の行動療法(行動規範[戒律]、善行、ポジティブ・シンキング)に加わる新しいテクニックになると思います。
脱フュージョンには複雑なやり方もあります。また思考を思考でコントロールして、その思考から距離を置くテクニックになりますが有益ですね。
脱フュージョンを活用していくとよいのではないかと思います。